今回は、数多くの住宅の防犯対策を手がけてきたベテラン鍵師の方に、見落とされがちな「引き戸」の防犯対策について、プロならではの視点から、その極意を伺いました。「一軒家やアパートの一階などで、引き戸の玄関は、実は空き巣にとって非常に魅力的なターゲットになり得ます」と、彼は語り始めます。「なぜなら、古いタイプの引き戸は、構造的にこじ開けに弱く、また、付いている鍵も簡易的なものであることが多いからです。防犯対策の第一歩は、まず、この二つの弱点を克服することにあります」。彼がまず強調するのが、「召し合わせ錠の鎌錠化」です。「引き戸の中央部分の鍵ですね。古いものは、施錠しても真っ直ぐな棒(デッドボルト)が出るだけ。これだと、バールを隙間に差し込まれて、テコの原理でこじ開けられると、意外と簡単に外れてしまう。これを、施錠すると鎌(フック)状のボルトが飛び出す『鎌錠』に交換する。この鎌が、受け金具にがっちり食い込むことで、こじ開けに対する抵抗力が、劇的に向上します。シリンダーはもちろん、ピッキングに強いディンプルキーにすることが大前提です」。次に、彼が「最低限の投資で、最大の効果」と語るのが、「補助錠の追加」です。「引き戸の防犯は、ワンドアツーロックならぬ、ワンスライドツーロックが基本です。召し合わせ錠に加えて、扉の端(戸先)に、もう一つ『戸先錠』を設置する。これにより、ロックポイントが二箇所になり、侵入にかかる時間が格段に長くなります。空き巣は時間を嫌いますから、これだけで犯行を諦めさせる大きな抑止力になります」。さらに、プロならではの視点として、彼が指摘するのが「ガラスの防犯対策」です。「古い引き戸には、中央に大きなガラスがはまっているデザインのものが多いですよね。犯人は、そのガラスを小さく割って、そこから手を入れて、内側のツマミ(サムターン)を回して侵入します。これを『ガラス破り』と言います。どんなに強力な鍵を付けても、ここが無防備では意味がない。対策として、ガラス全面に、強力な『防犯フィルム』を貼ること。これにより、ガラスを割ろうとしても、ヒビが入るだけで、簡単には貫通できなくなります」。鍵、補助錠、そしてガラス。この三位一体の防御こそが、引き戸の玄関を、難攻不落の要塞へと変えるための、究極の極意なのです。
鍵のプロが語る引き戸の防犯対策の極意