私たち鍵の専門業者のもとには、毎日さまざまな鍵のトラブルが持ち込まれますが、その中でも特に心を痛め、そして作業が困難を極めるのが、お客様ご自身が鍵を開けようと試みた結果、状況を致命的に悪化させてしまったケースです。中でも「ヘアピンでスーツケースの鍵を開けようとした」というご依頼は、典型的な失敗例として後を絶ちません。現場に到着し、問題の鍵穴を覗き込んだ瞬間に、私たちはその悲惨な状況を察知します。鍵穴の入り口には不自然な傷がつき、奥を覗けば、無残に折れ曲がったヘアピンの先端が、まるで罠のように内部に突き刺さっているのです。こうなってしまうと、私たちの仕事は「鍵を開ける」ことから、「鍵穴に詰まった異物を取り除く」という、全く別の次元の作業から始めなければなりません。これは、非常に繊細で根気のいる作業です。特殊な極細の工具を使い、内部のピンを傷つけないように細心の注意を払いながら、数ミリの金属片を少しずつ手前に引き寄せていきます。しかし、多くの場合、お客様が焦ってさらに奥に押し込んでしまっているため、取り出しは困難を極めます。数時間格闘した末に、結局は取り出せず、お客様にご説明の上でシリンダーをドリルで破壊せざるを得ないという結論に至ることも少なくありません。本来であれば、私たちのピッキング技術を使えば、スーツケースを傷つけることなく、わずか数分で解錠できたはずのものが、お客様の「もしかしたら開けられるかも」というほんの数分間の試みによって、数時間の作業と高額な破壊・交換費用を要する大掛かりな修理へと変貌してしまうのです。私たちは、その度に思います。どうか、そのヘアピンを鍵穴に差し込む前に、私たちプロの存在を思い出してください、と。鍵のトラブルは、病気や怪我と同じです。素人療法は症状を悪化させるだけです。最初から専門医に診せることこそが、最も早く、最も安く、そして最も安全に問題を解決する唯一の方法なのです。あなたの旅の思い出が詰まった大切なスーツケースを、一瞬の過ちで壊してしまわないでください。
鍵屋が語る素人によるヘアピン鍵開けの悲惨な末路