「家の鍵を、鍵単体で落としてしまった。免許証などは一緒じゃないから、家がバレる心配はないだろう」。多くの人は、そう考えて安心してしまうかもしれません。しかし、その考えは、少し楽観的すぎる可能性があります。確かに、住所情報がなければ、拾った鍵だけで、広大な市街地の中から特定の家を探し当てるのは、至難の業です。しかし、「鍵を落とした場所」という情報が加わることで、その難易度は、大きく変わってくるのです。例えば、あなたが鍵を落としたのが、自宅から半径数百メートル以内の、近所のコンビニやスーパー、あるいは通勤・通学で毎日使う最寄り駅の周辺だったとしたら、どうでしょうか。その鍵を拾った人物は、「この鍵の持ち主は、おそらくこの近辺に住んでいる人物だろう」と、極めて高い確率で推測することができます。そして、もしその人物が悪意を持っていた場合、その推測を基に、行動を起こすかもしれません。その手口が、「しらみつぶし」と呼ばれるものです。犯人は、鍵を拾った場所を中心に、近隣のマンションやアパート、一軒家をターゲットに定め、一軒ずつ、ドアの鍵穴に拾った鍵を差し込んで、開くかどうかを試していくのです。これは、非常に原始的で、時間のかかる手口ですが、もし鍵が一致すれば、確実に家を特定し、侵入することができてしまいます。特に、大規模なマンションであれば、一つのエントランスを抜ければ、何十、何百という住戸のドアにアプローチできるため、犯人にとっては効率の良いターゲットとなり得ます。また、あなたの鍵に、何か特徴的なキーホルダーが付いていた場合も、リスクは高まります。例えば、特定のマンション名が入ったタグや、近所の店のロゴが入ったものなどです。それらは、犯人にとって、捜索範囲を絞り込むための、大きなヒントとなってしまいます。もちろん、ほとんどの場合、鍵は親切な誰かに拾われ、交番に届けられるか、あるいは誰にも気づかれずに道端にあり続けるでしょう。しかし、その鍵が、百分の一、千分の一の確率で、悪意ある人物の手に渡る可能性は、決してゼロではありません。そのわずかな可能性のために、家族の安全を危険に晒すのか。それとも、数万円の費用をかけて、そのリスクを完全に断ち切るのか。その判断が、私たちに委ねられているのです。
鍵を落とした場所から家は特定されるのか