自動車の鍵のスペアを作りたいと考えた時、その作成にかかる時間は、家の鍵とは全く異なる基準で考える必要があります。特に、その時間を劇的に左右するのが、近年の自動車のほとんどに標準装備されている盗難防止システム「イモビライザー」の有無です。この機能があるかないかで、合鍵作成にかかる時間は、文字通り「天と地」ほどの差が生まれます。まず、イモビライザーが搭載されていない、昔ながらの金属部分だけの鍵(いわゆるギザギザキー)の場合。これは、物理的な鍵山の形状をコピーするだけなので、作業は比較的単純です。専門の鍵屋に依頼すれば、「10分から20分程度」で作成が可能です。しかし、問題は「イモビライザー」が搭載されている場合です。イモビライザーキーは、鍵の持ち手部分に、それぞれ固有のID情報が記録された電子チップが埋め込まれています。そのため、単に鍵の形を物理的にコピーしただけでは、ドアは開けられても、エンジンをかけることは絶対にできません。合鍵として機能させるためには、鍵の形を複製する作業に加えて、新しい鍵のチップに正しいID情報を書き込み、さらにそのIDを車両本体のコンピュータに「このキーも正規の鍵ですよ」と認証させるための、「登録作業(イモビライザー登録)」が不可欠になります。この登録作業には、自動車メーカーの専用のコンピュータ診断機(テスター)が必要となり、非常に専門性の高い作業となります。そのため、ディーラーや専門の鍵屋に依頼しても、作業時間は「30分から1時間以上」かかることが一般的です。さらに、キーをポケットに入れたままエンジンを始動できる「スマートキー」の場合は、システムがより複雑になるため、さらに多くの時間が必要になることもあります。車の合鍵作成は、もはや単なる「鍵の複製」ではなく、「電子機器の設定作業」という側面が強いことを理解しておく必要があります。